ゆのすのす

青い鳥、逃避行。

募集:ことばが必要だ

(長々と書いていますが、ジェンダーに由来する葛藤や生きづらさを乗りこなす支えになるような言葉をこちらから教えてくださいという投稿です。どうぞよろしくお願いします……!)

 

中学3年生のとき、国語の授業で「卒業論文」を書くよう求められたことがありました。

私はあるシンガーソングライターの方に関する論文のようななにかを書いたのですが、このときに接して印象的だった言葉があります*1。イギリスの社会学者サイモン・フリスが著書『サウンドの力』にて記した、次の言葉です。

ポピュラー音楽の社会学は、おうおうにして詞の分析という安易な道に陥ってきた。そのような歌詞に基礎を置くアプローチは、ロックの意味を把握しようとするときには役立たない。「歌詞は、理解すべき陳述である以前に、感じられるサウンドなのだ」(グリール・マーカス)ということを、ファンなら知っている。ロック・レコードの大部分は、詞よりも音楽でもって衝撃を与える。たとえ歌詞が話題になるにしろ、騒がれるのは音楽が有名になった後のことだ。決定的な変数は、サウンドでありリズムなのだ。

*2

私自身、思春期よりあとに心惹かれてきた文化——というといささか主語が大きすぎる気もしますが、ほかに適した表現が思いつきません——の多くは第一義的には耳で聞いて感じるものでした。

キリスト教文化に片足を突っこむようになったのも母校のクリスマス行事で聖書朗読に関わったのがきっかけでした。聖書の記述の意味を理解しようと試みはじめたのはしばらく経ってからですから、最初は聖書朗読すら私にとってはサウンドだったといえます。のちに教会に通うようになったのも、ひとつにはパイプオルガンの音色が心地いいからでした。

耳で聞いて感じるものに惹かれるのは、私がその意味を理解するのに先だって身体的な刺激を受けとっているからなのでしょう*3

 

ただ、惹かれたものが長きにわたって思いいれをもつものになるためにはロックでいうところの「歌詞」も重要だし、アウトプットのみならず「ミュージシャン」に惹かれていなければならないと思います。教会やキリスト教学校に通われたことがある方の多くに同意いただけると思うのですが、多少オルガンが好きなだけで教会に通うようにはそうそうなりません。

こうして振りかえるに、私が文化に思いいれをもつようになるのは、身体的に惹かれたうえでそこで接する言葉や人に惹かれるときなのだと思います。

 

さて、今日ここまでジェンダーの話をほぼしてこなかったのですが、これは私がジェンダーをめぐる葛藤や生きづらさが主題と考えられる文化にあまりにも接してこなかったからです。どれくらい接してこなかったかというと、『きのう何食べた?』『作りたい女と食べたい女』も履修していません。小説や漫画に比べると映画は見ているほうですが、それでも『片袖の魚』は見ていません。……だんだん逆ロングコートダディみたいになってきましたが、そういうこともあるんです*4。ポストフェミニズムの権化のような文化にばかり浸かったままここまで来てしまいました*5

ところが、ここ1年ほどでそうした文化に心を動かされることが増えてきました。詳しくは稿()を改めたいのですが、研究者の方やマイノリティ当事者の方による読みものに胸を打つことがあります。

この10年ほど、数多くの人々のジェンダーに由来する葛藤や生きづらさが可視化されてきましたが、同時にバックラッシュ(運動への反動、揺りもどし)のうねりは深刻さを増しています。そうしたなかで身体がその拠りどころを知らず知らず求めているのかもしれません。

 

こういうわけで、ジェンダーに由来する葛藤や生きづらさを乗りこなす支えになるような言葉を募ります。募るとは、募集するという意味です。

本・演劇・映画・テレビ番組・ラジオ番組・ウェブコンテンツ、そのほかどんな形態の、どんなジャンルのものでもかまいません(本なら小説・エッセイ・ノンフィクションなど、なんでもお待ちしています)。

以下のフォームからご回答いただけますとうれしいです!

*1:余談ですが、私はこのときの「卒業論文」を書くために今はなき地元の書店で買いもとめた本の数々を、大学の卒業論文のためにもう一度開くことになりました。ある大学院生の友人も似たことをいっていたのですが、けっきょくのところ関心の種は来た道に落ちているもののようです。

*2:Simon, Frith, 1981, Sound Effects: Youth, Leisure, and the Politics of Rock'n'roll, New York: Pantheon Books.(=1991,細川周平・竹田賢一訳,『サウンドの力——若者・余暇・ロックの政治学』,晶文社.) 

*3:こうした経験は情動(affect)という言葉によって説明されることがありますが、かなりこみいった話になるのでここでは深入りしません。

*4:ロングコートダディ吉本興業所属のお笑いコンビ。「M-1グランプリ2024」準々決勝ネタによれば、ロングコートダディのお二方は映画への造詣がきわめて深いようです😌 2024年12月3日現在、当該ネタは「M-1グランプリ」公式YouTubeチャンネルから閲覧できます。

*5:ポストフェミニズムとは、フェミニズムと距離を置く若年女性の存在がメディアなどを通して可視化され、「「フェミニズムは不要だ」という感覚が広がる社会的状況」のこと(引用部分は下記より)。

高橋幸,2020,『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど——ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』,晃洋書房